コンクリート構造物補修の化学療法による定量システムコンクリート構造物補修の化学療法による定量システム|リハビリ工法協会
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3.亜硝酸リチウムを用いた補修工法の概要 亜硝酸リチウム(Lithium Nitrite;LiNO2)とはコンクリート補修用混和剤として開発された工業用化学製品であり,その原料は「ナフサ」と「リシア輝石」です.ナフサとは原油を蒸留して最初に出てくる物質で,粗製ガソリンとも呼ばれます.リシア輝石とはリチウムの原料となる希少鉱物です. | コンクリート構造物補修の化学療法による定量システム|リハビリ工法協会

コンクリート構造物の補修技術

3.亜硝酸リチウムを用いた補修工法の概要

3.1 亜硝酸リチウムとは

(1)亜硝酸リチウムとは

 亜硝酸リチウム(Lithium Nitrite;LiNO2)とはコンクリート補修用混和剤として開発された工業用化学製品であり,その原料は「ナフサ」と「リシア輝石」です.ナフサとは原油を蒸留して最初に出てくる物質で,粗製ガソリンとも呼ばれます.リシア輝石とはリチウムの原料となる希少鉱物です.
 亜硝酸リチウム(LiNO2)は,正の電荷を帯びたリチウムイオン(Li)と,負の電荷を帯びた亜硝酸イオン(NO2)とがイオン結合した物質で,水に溶けやすい性質を持っており,亜硝酸リチウム水溶液として製品化されています(図3-1).色は薄い黄色または青色の透明な水溶液です(図3-2).
 
図3-1 亜硝酸リチウムの荷姿
図3-1 亜硝酸リチウムの荷姿
図3-2 亜硝酸リチウムの外観
図3-2 亜硝酸リチウムの外観
 
 亜硝酸リチウムの成分のうち,亜硝酸イオンは鉄筋表面の不動態被膜を再生する効果がありますので,塩害や中性化などの鉄筋腐食に起因する劣化の補修材料として適しています.一方,リチウムイオンはアルカリシリカゲルを非膨張化する効果がありますので,ASR 劣化の補修材料として適しています(図3-3).
 
図3-3 亜硝酸イオンおよびリチウムイオンの効果
図3-3 亜硝酸イオンおよびリチウムイオンの効果

(2)亜硝酸リチウムによる鉄筋腐食抑制効果

 亜硝酸リチウムの成分である亜硝酸イオンとリチウムイオンのうち,塩害および中性化の抑制に寄与するのは「亜硝酸イオン」です.塩害と中性化は,劣化要因や劣化メカニズムは異なるものの,両者とも最終的には不動態被膜の破壊による鉄筋腐食の問題に帰着します.換言すれば,塩害および中性化の抑制とは,共に鉄筋腐食を抑制することと理解することができます.
 亜硝酸イオン(NO2)の防錆効果についての研究成果は,1960 年代に入って国内外で多数報告されています.亜硝酸イオンによる鉄筋腐食抑制メカニズムには諸説あり,亜硝酸イオンがアノード型インヒビターとして働く酸化剤としての効果(不動態被膜再生効果),亜硝酸イオンが鉄筋表面に吸着することにより鉄の溶解を抑制する効果などが提唱されており,それらが複合的に働いている可能性もあります.ここで,不動態被膜再生に着目すると,亜硝酸イオン(NO2)は2 価の鉄イオン(Fe2+)と反応してアノード部からのFe2の溶出を防止し,不動態被膜(Fe2O3)として鉄筋表面に着床することによって鉄筋腐食反応を抑制します.これらを反応式で表すと図3-4 のようになります.
 
図3-4 亜硝酸イオンによる不動態被膜の再生
図3-4 亜硝酸イオンによる不動態被膜の再生
 
 亜硝酸イオン(NO2)と鉄イオン(Fe2+)との反応により不動態被膜が再生されるため,以後の鋼材の腐食は進行しません.これが亜硝酸イオンによる鉄筋腐食の抑制メカニズムです.図3-5 に鉄筋腐食の模式図を,図3-6 に亜硝酸イオンによる不動態被膜の再生の模式図を示します.
 
図3-5 鋼材の腐食
図3-5 鋼材の腐食
図3-6 亜硝酸イオンによる不動態被膜の再生メカニズム
図3-6 亜硝酸イオンによる不動態被膜の再生メカニズム

(3)亜硝酸リチウムによるASR 抑制効果

 亜硝酸リチウムの成分である亜硝酸イオンとリチウムイオンのうち,ASR の抑制に寄与するのは「リチウムイオン」です.MacCoy らが1951 年に発表した論文においてリチウムイオンによるASR 抑制効果が初めて示され,それ以降,様々なリチウム化合物を用いたASR 抑制効果に関する多くの実験的研究が国内外でなされています.いずれの研究においても概ね反応性骨材を使用したコンクリートまたはモルタルを練り混ぜる段階で一定量以上のリチウム化合物を供給した場合,ASR 膨張が抑制されることが検証されています.
 第2 章に記述したとおり,ASR の進行過程は第1 ステージ「骨材中のシリカ鉱物とコンクリート中のアルカリ金属との反応によってアルカリシリカゲル(Na2O・nSiO2)が形成される過程」と,第2 ステージ「アルカリシリカゲル(Na2O・nSiO2)が水分を吸収して膨張する過程」に分離して考えることができます(図3-7).ASR の進行過程の反応機構をみると,十分な水,十分なアルカリ金属イオン,および骨材中の反応性シリカの存在,という3 つの条件が揃ったときに,ASR によるコンクリートの劣化が生じるということが理解できます.換言すれば,これら3 条件のうちいずれか1条件の成立を阻止することにより,ASR によるコンクリートの劣化を抑制することができると考えられます.
 
図3-7 ASR 劣化の進行過程 (再掲)
図3-7 ASR 劣化の進行過程 (再掲)
 
 従来,ASR によって劣化したコンクリート構造物の補修工法として表面保護工により外部からの水分供給を遮断する対策が多く採られてきました.これは図3-7 中の第2 ステージに示されるゲルの吸水膨張を阻止することを目的としています.しかし,例えば橋台や擁壁などのように背面土砂側からの水の供給を遮断することが困難な場合もあり,条件によっては外部からの水の供給を完全に遮断することは難しい場合があります.
 ここでリチウムイオンが登場します.リチウムイオンによるASR 膨張抑制メカニズムは諸説ありますが,現時点ではリチウムイオンがアルカリシリカゲルを非膨張化させるという考え方が一般的です.図3-7 にて示したASR の進行過程のうち,リチウムイオンの存在下では第2ステージのアルカリシリカゲルの膨張が抑制されます.すなわち,アルカリシリカゲル(Na2O・nSiO2)にリチウムイオン(Li+)が供給されることによって,水に対する溶解性や吸湿性を持たないリチウムモノシリケート(Li2・SiO2)またはリチウムジシリケート(Li2・2SiO2)に置換され,アルカリシリカゲルが非膨張化されるのです.これらを反応式で表すと図3-8 のようになります.アルカリシリカゲルがリチウムイオンによって非膨張化されると,吸水膨張反応が収束するため,以後,コンクリートのひび割れは進行しなくなります.これがリチウムイオンによるASR 抑制のメカニズムです.
 
図3-8 リチウムイオンによるゲルの非膨張化
図3-8 リチウムイオンによるゲルの非膨張化

(4)浸透拡散型亜硝酸リチウム40%水溶液

図3-9 浸透拡散型亜硝酸リチウム40%水溶液
図3-9 浸透拡散型亜硝酸リチウム40%水溶液
 塩害,中性化,ASR によって劣化したコンクリート構造物の補修材料である亜硝酸リチウムのうち,コンクリート中での浸透性・拡散性に優れた浸透拡散型亜硝酸リチウムがあります.
 浸透拡散型亜硝酸リチウムは,製造過程での不純物混入を極力抑えた高機能材料であり,内部圧入工法やひび割れ注入工法などのようにコンクリート中に圧力をかけて亜硝酸リチウムを浸透させる場合の浸透性が向上しています.従って,これらの工法に浸透拡散型亜硝酸リチウムを使用することにより,亜硝酸リチウムの有効成分の浸透範囲が拡大するとともに,浸透の確実性が向上します.
 浸透拡散型亜硝酸リチウムと従来の亜硝酸リチウム製品2 種類における浸透性能を確認するために,『JSCE-K571-2004「表面含浸材の試験方法(案)」6.3 透水量試験』に準拠した透水量試験が実施されています.透水量試験の状況と結果を図3-10,図3-11 に示します.この試験結果より,一定水圧作用下における各種亜硝酸リチウムのコンクリート中への浸透性能には差異が認められ,浸透拡散型の方が従来品よりも25%程度向上していることが分かります.この試験は亜硝酸イオンやリチウムイオンのイオン拡散性ではなく,水溶液の状態でのコンクリート中の浸透を測定したものです.従って,本試験の結果は,浸透拡散型亜硝酸リチウムが内部圧入工法やひび割れ注入工法など,圧力を作用させて使用する場合の施工において優位性を発揮することを示しているといえます.
 
図3-10 透水量試験の状況
図3-10 透水量試験の状況
図3-11 透水量試験結果
図3-11 透水量試験結果
 
参考材料 『プロコン40 (浸透拡散型亜硝酸リチウム40%水溶液)』
NETIS 登録番号;CG-100022-A
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